「法人化するかどうか、そろそろ考えた方がいいのかな?」
個人事業主としてある程度軌道に乗ってくると、そんなふうに感じる瞬間が出てきます。
税金、社会保険、信用力、取引先の反応──。
法人成りには確かにメリットも多くありますが、一方で負担も小さくありません。
私自身、BtoBの契約で「法人じゃないの?」と難色を示されたり、悔しい思いをしたことがきっかけで法人化に踏み切りました。
この記事では、実際に個人事業主から法人成りした体験をもとに、メリット・デメリットをリアルにお伝えします。
法人成りとは?個人事業主が法人化する意味
個人で事業をしていて、ある程度軌道に乗ってくると「法人化した方がいいのかも?」という考えが頭をよぎります。
とくに、取引先との信頼関係や契約条件などで“法人格の有無”が影響してくる場面もあるため、判断に迷う人も多いでしょう。
そもそも法人成りとはどういうことなのか?
ここでは、法人化の基本的な意味と、個人事業主との違いを整理します。
そもそも法人化とは?
法人化とは、個人ではなく「法人(会社)」として事業を行うことをいいます。
事業体に法人という人格を持たせることで、個人とは別の「会社」として事業を運営できるようになります。
これが、いわゆる“法人化”です。
法人化すると、会社名での契約や請求ができるようになります。
登記もされるため、社会的に独立した存在として認識され、対外的な信用が得られやすくなります。
とくにBtoBの事業では、「法人であるかどうか」が契約や提携の前提になるケースも少なくありません。
法人化は、単なる手続き以上に、事業の見られ方を変える選択でもあるのです。
個人事業主との違いは?
個人事業主と法人の違いは、主に次の4つではないでしょうか。
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責任の範囲が違う
個人事業主は「無限責任」です。事業の負債であろうと、すべて個人にかかってきます。
法人化すれば「有限責任」となり、会社の資産の範囲内で責任を負うことになります。 -
税金の仕組みが違う
個人は所得税(累進課税)、法人は法人税(一定割合)です。
利益や経費の出方によっては、法人のほうが手元に残るお金を増やしやすくなる場合もあります。 -
社会保険の加入義務がある
法人化すると、原則として健康保険・厚生年金への加入が必要になります。
個人事業主の国民健康保険・国民年金と比べ、将来的な保障は手厚くなりますが、負担も大きくなります。 -
信用してもらいやすくなる
法人化すると、銀行や取引先から信用してもらいやすくなります。
「代表取締役」などの肩書きがあるだけで、やりとりのスムーズさや扱われ方が変わることもあります。
制度面での違いはもちろん、日々のやり取りや人との関係性にも違いがあるのが個人事業主との違いです。
法人成りのメリット
法人化には、手続きや維持費といった負担もありますが、それでも検討する価値があるのは、やはり得られるメリットがあるからです。
私自身、「法人であること」が前提のような扱いを受ける場面を経験して、実際に法人化を決めました。
ここでは、私の実感を含めつつ、法人化によって得られる主なメリットを整理してみます。
法人化したら扱いがかわる?実際に感じた「扱いの差」
法人化して、その代表という肩書を持つようになると、営業や契約の場面での扱われ方が変わったと感じるようになりました。
被害妄想かもしれませんが、個人事業主のときは、相手がこちらを少し下に見るような空気を感じることもありましたが、法人成りしてからは、そういった空気を感じることは明らかに減りました。
とくにBtoBの取引では、「法人であること」が契約の前提になっている場面も少なくありません。
実際に私は、個人事業主であることを理由に契約に難色を示され、同業の方に間に入ってもらったことがあります。
悔しかったですが、それが法人化を決める大きなきっかけにもなりました。
「中身は変わっていないのに、名刺一枚で扱いが変わる」
これは皮肉なようで、でも実際に起きることです。法人化には、こうした対外的な信頼感を高める効果があります。
契約や資金調達では法人の方が有利
法人化することで、契約や取引の場面で有利になることがあります。
とくに法人同士の取引を前提としている企業では、「法人格があること」が契約の条件になっている場合もあります。
私自身は融資や借入を行っていないため資金調達の面での実感はありませんが、法人化によって金融機関からの信用が高まり、融資が通りやすくなるという話はよく聞きます。
補助金や助成金の制度の中には、法人の方が条件を満たしやすいものもあります。
たとえば、従業員を雇用していることが前提になっている制度などでは、法人の方が制度設計に合致しやすい傾向があります。
法人化によって選択肢が増える面があるのは、確かなメリットのひとつです。
経費の範囲が広がる
法人化すると、経費の考え方やお金の使い方は、個人事業主のときよりも選択肢が広がります。
たとえば、役員報酬として給与を支払い、その金額を損金(法人の経費)にできる仕組みは、法人ならではのものです。
旅費規程を作成すれば、出張時の手当を非課税で受け取ることも可能になります。
もちろん、すべてを経費にできるわけではありませんし、節税だけを目的に無理なやり方をするのは本末転倒です。
それでも、「何にどれくらい使うか」「どうやって現金を残すか」といった経費や資金の使い方を柔軟に調整できる点は、法人の方が優れていると感じます。
事業の規模にかかわらず、お金の動かし方を工夫できる点は、法人化によって得られる実務的なメリットのひとつです。
社会保険の仕組みも法人化で大きく変化
個人事業主の場合に加入している国民健康保険と国民年金は、法人化すると原則、健康保険・厚生年金へと変更になります。
国民年金は、個人事業主であっても法人の代表であっても加入しますが、厚生年金には個人事業主は加入できません。
法人化によって厚生年金に加入できるようになると、将来の年金額に上乗せされる形になり、受け取れる年金が増えます。
また、健康保険も協会けんぽや組合健保が利用でき、医療費の自己負担や傷病手当金などの制度面でも手厚さがあります。
私自身、毎月の保険料負担は正直かつかつですが、「万が一のときに支えてくれる制度がある」という意味では、法人化にともなう社会保険の切り替えはメリットだと感じています。
法人成りのデメリット
法人化にはメリットも多くありますが、その分だけ負担や制約も増えます。
制度上の違いを知らずに法人化してしまうと、思わぬ出費や手間に悩まされることにもなりかねません。
ここでは、実際に私が感じた「法人化して大変だったこと」「事前に知っておくべき点」を、デメリットという形で整理します。
意外と重い社会保険料の負担
法人化すると、健康保険と厚生年金に加入する必要があります。
その分、保障は手厚くなりますが、保険料の負担は個人事業主時代よりも大きくなると感じる人が多いのではないでしょうか。
個人事業主の場合、収入が少なければ国民健康保険・国民年金の保険料もある程度抑えられます。
しかし、法人化後は役員報酬の金額をベースに保険料が決まるため、たとえ赤字でも保険料の支払いは毎月発生します。
私自身も、月3万円の役員報酬に対して社会保険料を支払っており、金額としては正直きついと感じることもあります。
それでも、厚生年金や健保の制度的な安心感はあるため、負担と安心感のバランスをどこで取るかは、事業設計次第だと感じています。
お金の引き出しは個人事業主が◎
法人化すると、会社のお金と自分のお金を明確に分けて管理する必要があります。
個人事業主のように、事業の売上をそのまま生活費にあてるといった使い方は、法人では基本的にできません。
たとえば、法人口座にお金があっても、それを個人の生活費として自由に引き出すことはできません。
代表者個人が使う場合は、役員報酬として支給するか、貸付や立替などの形式をとる必要があります。
私の場合、事業用と生活用の口座が明確に分かれたことで、お金の流れ自体は見えやすくなりました。
ただし、「会社にお金はあるのに、自分の手元には残っていない」という状況は、気持ちの面でなかなかつらいこともあります。
法人化すると、お金の使い方にルールができる。
これは健全な反面、自由度が減るという意味では、大きな変化のひとつです。
会計の手間や事務手続きが増える
法人化すると、会計の手間や事務手続きが一気に増えます。
個人事業主のころはExcelでの帳簿管理でも問題なかったのが、法人になるとそうはいきません。
私も法人化と同時に税理士と契約しましたが、指定の会計ツールを導入しました。ただでさえ法人の帳簿付けは個人事業主と比べて細かくなるため手間が増えるにも関わらず、新たに入力方法を覚えないとならす、これが結構辛かったです。
法人名義での契約や申請が増える分、必要な書類や確認項目も多くなります。
また、会計以外にも、法人名義で契約する場合には、登記簿謄本など法人に関する公的書類が必要となり、個人名義で契約する場合に比べて、さまざまな書類を準備する必要があります。これも事務作業が増える要因となっています。
小さなことの積み重ねですが、「ここまで違うとは思っていなかった」と感じた部分です。
法人成りで変わるお金との向き合い方
法人化は、制度や契約の違いだけでなく、日々のお金の扱い方にも影響します。
「売上が増える」「節税できる」といったイメージだけで判断してしまうと、実際に法人を運営する中で違和感やギャップに戸惑うことになります。
ここでは、法人化によって変わった「お金の感覚」について、実際の変化をもとに振り返ります。
法人化で個人と事業の財布が完全分離
個人事業主時代は、会計上、事業と個人のお金が分けられておらず、法人のように一定の手順を踏まずにお金を引き出すことができます。
しかし、法人化すると、事業のお金と個人のお金が完全に分離されます。
法人のお金は、法人が事業活動を行うために使われるものであり、個人が自由に使うことはできません。
そのため、個人が生活費を得るためには、法人から役員報酬という形で支払ってもらう必要があります。
ここで、「給与」や「役員報酬」といった新たな概念が登場します。法人から対価として支払われる給与や役員報酬があって初めて、個人が生活費を得ることができるようになるのです。
たとえ一人社長であっても、法人のお金を勝手に引き出すことはできません。
報酬は法人から個人へ支払われる
法人化すると、個人事業主時代にはなかった「給与」や「役員報酬」という概念が登場します。これらは法人の活動に対して働いたことに対する報酬として支払われ、個人事業主との大きな違いのひとつです。
個人事業主の時は、事業から得た収入を自由に生活費として使うことができましたが、法人化後は、これらは法人から正式に支払われる報酬として、個人に支払われることになります。
私はひとり社長として、法人からの「役員報酬」を受け取ることになりますが、税理士さんと相談し、所得控除の範囲内に収まる額に設定しました。
法人立ち上げの年は、会社員としての給与も含めて調整し、一般的には役員報酬の最大額は所得控除範囲内で4.5万円程度となっています。
法人化により、事業のお金と個人の生活費は完全に分けられ、法人から支払われる報酬が個人の生活費として充てられることになります。これにより、事業のお金は自由に使えなくなり、管理がより厳格になります。
まとめ
法人化は、事業運営の自由度を広げる反面、負担や制約も増える選択肢です。
法人化を決断する際には、そのあたり十分に織り込んで検討するのが良いと思います。
私自身は法人化して良かったと感じています。私は信頼性を高めることが法人化の最大の目的でしたが、特に法人化後の営業でのやりとりを振り返ると、個人事業主の時と比べ法人化で信頼性は高まったと感じています。
一方で、デメリットと感じる部分もあります。特に、会計の手間や事務手続きの負担は法人化後に増え、これまで以上に注意深い管理が必要となりました。
個人事業主と違って、事業のお金があっても、個人事業主のように自由にプライベートのお金に充当することはできません。プライベートでのお金の自由度を重視する場合は、法人化は制約が大きくなるので、慎重に考える必要があると思います。
法人化は、単に事業を拡大するためだけでなく、事業の運営方針や将来設計に応じた選択をするための重要な決断です。
事業の規模や運営の仕方によって、その選択肢は異なりますが、メリットとデメリットをよく理解したうえで、最適な形で法人化することが重要だと感じています。